リサーチ・グループ第一回ワークショップ報告

by | Apr 8, 2019 | Uncategorised | 0 comments

 「宗教とマイノリティ:世俗社会における、生きられた宗教,移民、周縁性リサーチ・グループ」(以下、宗教とマイノリティ・リサーチグループ)は、2019年3月11日から14日まで、英国マンチェスター及びロンドンにおいて4日間にわたるワークショップを開催した。日本から2名、英国から5名の研究員と2名のリサーチ・アシスタントが参加し、今後の共同研究についての議論を深めるとともに、研究テーマに関連する宗教施設を訪問した。

 宗教とマイノリティ・リサーチグループは、主に英国、マレーシア、ロシア、フランス、日本における「マイノリティ宗教」あるいは、「マイノリティと宗教」について、異なる方法論をもって包括的な分析をすることを目的としている。3月11日は、各々の研究テーマと全体のテーマとの関わりの確認をした。とくに議論になった点は、「マイノリティ」という概念があるグループに対して適用されるにあたって、その意味は所属メンバーの人数や国の法的な手続きによって定義されるものではないということである。この概念は国籍、人種、エスニシティ、ジェンダー、セクシュアリティなどの要因と深く関わるだけでなく、歴史的・社会的背景にともなって変化するため、文脈を確定したうえで定義されなければならないのである。たとえば、伝統的で世界的な勢力があると思われる宗教も、とうぜん地域によってはマイノリティになり得る。また、マイノリティ宗教の中でさらに周縁化されている信者や運動がある。また、政府やメディアの観点から、「良い」宗教と「悪い」宗教が選別されて、社会的な意見を形成する可能性についても注意しなければならない。宗教団体の側からしても、みずからがマイノリティであることについての解釈は様々だ。マイノリティであることが、この悪の世にあって「真理の印」とされる場合もあるが、マイノリティとみなされることを嫌う宗教団体もある。マイノリティという概念が分析概念として機能するかは、こうした様々な要因を整理したうえで、何が事実として浮かび上がってくるのかを見極めることができるかどうかにかかっていると言えるだろう。

 以上のようなマイノリティ概念の外延の恣意性について考慮しつつ、翌日から訪問するマンチェスターおよびロンドンの宗教施設・グループにおいて、我々は5つの質問を軸にインタヴューを行うことにした。1)活動の歴史と概要、2)同系列のより大きな教団との関係、3)メンバーの特性、4)現在のイギリスでの活動で直面している困難、5)その団体にとって、マイノリティ(であること、あるいは概念として)は何を意味するか。

 3月12日の午前中は、マンチェスターにある台湾系の大乗仏教教団の佛光山(Fo Guang Shan Temple)を訪れた。80年代に教勢が増したこの団体は、国際的に活動拠点をもっており、中央の指令によって出家の教師が派遣される。出家者には女性が多いが、それは男性の場合、台湾の社会で家庭を築いて働くことが期待されているからだという。今回寺院の案内をしてくれたのも、解説をしてくれたのも尼僧だった。一方で、団体の上層部は男性の僧侶が大多数である。活動はスカウトや様々な慈善活動、ボランティアの他、中国語教室を行っており、儀礼もすべて中国語で行われる。外国にあって台湾系移民の文化と伝統を継承していくという役目を積極的に担おうとしている姿勢が感じられた。そのため、寺院に集うのは主に中華系移民の一世で、二世への宗教の継承は大変むずかしく、強制することは逆効果だというのがその尼僧の意見だ。また、英国人の出家者はおらず、「ブリティッシュ」と「チャイニーズ」は相反する面が多いとのことだった。そのような意味で、マンチェスターの佛光院は地域社会においてマイノリティであるという自覚があるようだった。

 午後訪問したのは、マンチェスター郊外にあるセントジェームズ・イマヌエル英国国教会(St James and Immanuel C of E Church)で、ニック・バンドック司祭(Rev. Nick Bundock)から、教会が積極的にLGBTQに門戸をひらいていく「インクルーシブ・チャーチ」になった過程についてきいた。きっかけは、2014年9月10日、その教会で育ってきた14歳の少女が自ら命を断ったことだった。彼女は自分がレズビアンでありながら信仰共同体のなかで生活することに悩んでいたのだという。それまで教会ではセクシュアリティについて語られることはなかった。彼女の死の4ヶ月後、教会の指導部は経済力、人種、心身の健康あるいは障がいという様々な違いをもつ人々を受け入れるだけでなく、すべての性的志向をもつ人々を平等に受け入れる「インクルーシブ・チャーチ」となることを宣言した。それをうけて、「指導部は聖書に忠実でない」として、教会を離れた人々もいたという。現在、セント・ジェームズ&イマヌエル教会には、多様な性的志向をもつ人々はもちろんのこと、4年前にはいなかった50人以上のイラン人の改宗者たちと、数人の学習障害をもつ大人たちが礼拝に集っている。LGBTQI+を受け入れたことで、社会のなかで少数派とみなされる要素を持つほかのグループの人々も集うようになったのは興味深い。現在は教会の一部をコーヒーショップとして開放したり、プライドBBQなどの活動が行われている。教会が主催するプライドBBQは2018年9月に第一回が開催された。「プライド」は、LGBTQI+であることの誇りとそれにたいする理解、啓蒙を訴えの表現として国際的に各地で行われているが、その地域でははじめての試みだった。インクルーシブ・チャーチは英国国教会全体ではマイノリティだが、教区は信仰的にリベラルで、司教との関係もよいという。教会のメンバーの多くは中流階級の白人であり、経済的には多様性に欠けること、また、妊娠中絶など女性の権利の問題、宗教間対話は今後の課題とされていた。

 3月13日は、ロンドンでムスリムのLGBTQI+グループ、ヒダヤ(Hidayah)のメンバー4名の話をきくことができた。出生地や両親の故郷は、カタール、パレスチナ、パキスタン、タンザニアと様々で、ゲイ、トランスジェンダー、レズビアンとして、またムスリムの移民として生きることについて語ってくれた。ヒダヤの主な活動はオンラインのグループチャットで、一ヶ月に一回オフ会があるという、アウティングにつながらないサポートシステムとして機能している。彼らはロンドンという地域で、宗教的にマイノリティであるだけではなく、その宗教のなかでもマイノリティであるという自覚をはっきりともっていた。また、いわゆる一般のLGBTQI+コミュニティにおいても、ムスリムである彼らはマイノリティである。家族との経験は個人によって状況はさまざまだが、姉妹がいる場合は、彼女たちが結婚するまで話せないと述べた人もいた。また、移民してきた国の社会のほうがLGBTQI+に対してオープンになっており、ロンドンの移民コミュニティのほうが保守的であるということもある。モスクは彼ら自身や家族の相談とカウンセリングの場としては機能しておらず、そこで詳細を話すことはアウティングにつながる可能性が危惧されていた。パートナーはムスリムではないほうがよいというのが全員一致の意見であること、また、ミーティングの場所を固定することは危険であると述べられていたことは、複合的マイノリティとして、彼らが直面している困難を思わせた。

 3月14日に訪問したのは、ロンドンの浄土真宗の三輪精舎(Three Wheels Temple)で、住職の佐藤顕明上人にインタヴューした。佐藤上人は学者として大学で教鞭をとっていたが、50歳のときに、若い頃から関わりがあった福岡県筑紫野市にある正行寺で修行をはじめる。三輪精舎は1993年、佐藤上人がはじめは6ヶ月の任期付きで派遣されたことにはじまっている。1996年から、第二次大戦で命を失った兵士たちを弔う和解の法要を行っており、最初の法要はウエストミンスター寺院と共同で行われた。精舎には枯山水庭園があり、ミーティングには禅も取り入れられている。その他語学クラス、仏典購読などのあつまりがあり、口伝いに話をきいた、40−50人が定期的に集まっている。集まる人は日本人よりも英国人が多い。宣伝および布教をしないため、隣人との関係はよいという。住職はキリスト教、イスラーム、立正佼成会など、他宗教とのインター・フェイスの活動にも積極的だ。日本仏教というイギリスではマイノリティとされる宗教ではあるが、マイノリティとしての自覚はあまり感じられなかった。しかし、もし集う人々の多くが英国人であるとするならば、精舎に関わる日本人はマイノリティと感じることがあるのかもしれないが、その点は推測であって未確認である。

 以上4つの事例から、個々マイノリティグループが宗教をとおして社会での自らの立ち位置を交渉する、異なる形態を確認することができた。冒頭で述べたように、マイノリティ概念は、対象となるグループがどのような意味でマジョリティから周縁化されているのか詳しく考慮してはじめて、分析概念として有用に機能する。そして、周縁性はしばしば複合的である。その複合的周縁性の様相によって、グループが直面する困難は異なり、そのなかで宗教的信念、あるいは伝統がどのような役割を果たしているのかをみていくことは現代の宗教運動だけでなく、現代社会の複雑な諸相を理解する上でも重要であると考えられる。

村山由美

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