「1925年から1945年の近代日本における子供時代、教育、および青年の回想と記録」という研究プロジェクトについて

「1925年から1945年の近代日本における子供時代、教育、および青年の回想と記録」プロジェクトは、2012年8月から2015年12月まで行われた。1945年以前の日本で、子供時代や教育、また中には若い時代を経験した年代の人々100名にインタビューし、1925年から1945年に子供たちや若い人が作成した(書き物や絵など)資料を収集し、デジタル化し、これらオーラル・ヒストリー(口述歴史)の聞き取り記録とデジタル化した資料をマンチェスター大学のデジタル・アーカイブとして作成・保存し、研究者や学生が広くアクセスできるようにすることなどが目的である。また、このウェブサイトの作成もプロジェクトの目的の一つで、アーカイブについて本ウェブサイトでも詳しく紹介している。学校の生徒や大学の学生のほか、教員や研究者が利用できるように、プロジェクトで研究したトピックを紹介する。プロジェクトのデジタル・アーカイブに含まれたオーラル・ヒストリー資料の要約や書き起しからの抜粋や、アーカイブから選び取った限定的な資料もこのウェブサイトで提供する。まずは教材として、またこの分野に親しんでいない研究者にも役立ち、究極的には更なる研究を奨励するきっかけとなればと願うものである。

このプロジェクトでは、オーラル・ヒストリーとして、日本の様々な地域で多種多様な人生や教育を経験してきた人々とのインタビューを行うよう努め、成果を得た。地域的には、沖縄、福岡、鳥取、大阪、京都、奈良、滋賀、石川、富山、長野、群馬、埼玉、東京、茨城、山形、および青森の各都府県の出身者で、市街地で育った人、田舎で育った人、と様々である。また、職業的背景も農業、商業、工業、公務員、軍関係と多岐にわたる。インタビューを受けた人の中には、選別式中等学校、もしくはそれ以上の高等教育を受けた人も含まれているが、尋常小学校、もしくは高等小学校の出身者もいる。ただし、 幾つか制約もあった。特に旧制中学校に行く機会のなかった人々の中でインタビュー対象の多様性を確保するよう注力したが、とりわけ(都市部でも地方でも)最低所得層の家庭出身者がなかなか集まらなかった。この点については将来的に改善が求められる。

プロジェクトメンバーは、現在出版準備中のものも含めて、数々の論文を研究成果として発表している。既刊の論文の一覧を以下に挙げる。プロジェクトの一貫として、関係分野で活躍する研究者や大学院生を一同に会したイベントを日本とイギリスで開催した。2014年1月、京都大学大学院教育学研究科・教育学部の稲垣恭子教授との共催で行ったバイリンガルシンポジウム、並びに2015年11月、マンチェスター大学が開催した一日のワークショップである。これらのイベントでの発表のほか、プロジェクトチームのメンバーは、米国のアジア研究協会(Association for Asian Studies)、英国日本研究協会(British Association for Japanese Studies)、日本教育社会学会、およびヨーロッパ日本研究協会(European Association for Japanese Studies)など各種の学会のセミナーや大会で成果を発表した。

プロジェクトメンバーは、ピーター・ケイブ博士(Dr Peter Cave ―研究責任者); アーロン・ムーア博士(Dr Aaron William Moore-共同研究責任者); 石岡学博士(研究助手); ハリデー・ピエル博士(Dr L. Halliday Piel―研究助手)であった。

オーラル・ヒストリーのインタビューは、以下のメンバーが行った。研究チームのケイブ、石岡、ピエルのほか、研究員として、一棟宏子教授、北村毅博士、桐明綾氏、中野迪代教授、林久恵氏、宮橋國臣氏、門間由記子博士、ステイベン・ロバートソン博士(Dr Stephen Robertson)、 および 歌川光一氏である。プロジェクトにおいて、全員の氏名を挙げることができないほど多くの方々から温かいご支援を受けたが、中でも特に次の皆さんに心より感謝を申上げたい:青木靖夫氏、石川瑠璃博士、稲垣恭子教授、猪田章嗣氏、上田博章氏、小井土敦子 氏、斎藤利彦教授、津野亨生氏、ジェニファー・ヒカリ・デイクソン氏(Ms Jennifer Hikari Dixon)、寺村銀一郎氏、野田麻実子博士、秦珠子博士、濱貴子博士、樋爪修氏、アンナ・フレーザー博士(Dr Anna Fraser)、前田德子氏、美川季子氏、ユマ・ムラタ氏(Mr Yuma Murata)、山本雅博士、吉村文茂教授、吉野亜矢子博士。

本研究プロジェクトは、英国Arts and Humanities Research Council (UK) の研究助成金番号AH/J004618/1の支援を受けている。AHRCの重要な支援に深い感謝の辞を述べる。

本ウェブサイトは、2011年7月から2012年1月まで、日本学術振興会(JSPS)の外国人招聘研究者としてピーター・ケイブが京都大学大学院教育学研究科・教育学部で行った研究の成果にも基づくものであり、招聘研究者として、51名に1925年から1940年の期間について子供時代の回想や教育についてインタビューを行った。ケイブは、本研究の参加者または支援者の皆さんに感謝し、特に研究者招聘の機会を与えて頂いた日本学術振興会と受け入れ機関である京都大学大学院教育学部の稲垣恭子教授に深い感謝の辞を述べるものである。

発表文献

石岡学. 2014.「1920年代日本の中等学校入試改革論議における『抽籤』論にみる選抜の公正性」『教育社会学研究』第94集、173-193.https://www.jstage.jst.go.jp/article/eds/94/0/94_173/_article/-char/ja/

Cave, Peter. 2016. Guest Editor, Special Issue, ‘Children, Education, and Media in Japan and Its Empire.’ Japan Forum 28: 1. http://www.tandfonline.com/toc/rjfo20/28/1

Cave, Peter. 2016. ‘Introduction: Children, Education, and Media in Japan and Its Empire.’ Japan Forum 28: 1, pp. 1-8. http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09555803.2015.1077878

Cave, Peter. 2016. ‘Story, Song, and Ceremony: Shaping Dispositions in Japanese Elementary Schools during Taisho and Early Showa.’ Japan Forum 28: 1, pp. 9-31. http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09555803.2015.1077875

Han, Hyunjung. 2016. ‘Adventure Stories and Geographical Imagination in Japanese and Korean Children’s Magazines, 1925-1945’. Translated from the original Japanese by Peter Cave. Japan Forum 28: 1, pp. 99-120. http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09555803.2015.1077877